佐々木能衣装

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能装束について

能装束の種類

能装束には様々な形のものがあります。先ずは着用する箇所よりの分類です。

1. 表着(うわぎ)として用いられる装束・・・装束を着用した際に一番上に着るもの。

袖は小袖のものと広袖のものがあります。
唐織(からおり)・厚板(あついた)・長絹(ちょうけん)・単法被(ひとえはっぴ)・舞衣(まいぎぬ)・水衣(みずごろも)・直垂(ひたたれ)・素襖(すおう)・袷法被(あわせはっぴ)・側次(そばつぎ)・狩衣(かりぎぬ)・直衣(のうし)

2. 着付(きつけ)として用いられる装束・・・表着の下に着込むもので袖は小袖です。

唐織・厚板・白綾(しろあや)・白練(しろねり)・熨斗目(のしめ)・縫箔(ぬいはく)・摺箔(すりはく)

3. 袴類

大口(おおくち)・半切(はんぎり)・長袴(ながはかま)(素襖下)・緋長袴(ひのながはかま)・指貫(さしぬき)・直垂(ひたたれ)の袴・稚児袴(ちごばかま)

4. その他小物類

腰帯(こしおび)・鬘帯(かづらおび)・角帽子(すんぼうし)・頼政頭巾(よりまさずきん)などのかぶり物類など

素材と工法

この頁では製造方法よりの分類です。
大まかに織物・刺繍と金彩加工・染め物に分類できますが、使用している織物の種類は実に様々です。

1. 織物で出来ている能装束
綾(あや)類・・・唐織・厚板・白綾
厚板と唐織の違い
能装束としての厚板と唐織の違いは「文様」の違いです。「厚板」は男性的な役・鬼などの超人的な役に用いるため、雲や龍などの強さを感じさせる文様が主に使われます。唐織はもっぱら女性の役が使用するので草花などの文様が多く使用されます。
ただ、織物としての「唐織」と「厚板」は少し意味合いが違ってきます。「厚板」は地厚な綾織物、「唐織」はそこにさらに縫い取りの技法を駆使し、浮き織りで文様を表したもののことになります。従って、能楽で使われる厚板の中には織物としては「厚板唐織」と呼ぶべきものも含まれます。
金襴(きんらん)類・・・袷狩衣・法被・半切・側
金襴とは
なめらかな光沢のある織物である朱子(しゅす)地に金箔・銀箔で柄が織り出された織物です。
フルエ物類・・・長絹・単法被・舞衣・単狩衣・直衣
「うすもの」の機
絽(ろ)・羅(ら)・紗(しゃ)などの透けた生地は「振綜絖(フルエソウ コウ)という特殊な装置で織っていきます。織物は原則としてたて糸とよこ糸は垂直に交わりますがこの仕組みにより、経糸(たていと)が他の経糸と絡み、隙間を生じさせることで透けた織物が出来上がります。
精好(せいごう)類・・・水衣・大口・紋大口(もんおおくち)
平絹(へいけん)類・・・段熨斗目(だんのしめ)・無地熨斗目(むじのしめ)・裏地
平織のバリエーション
ジャガードを使用しない平織の機でも、たて糸と横糸の組み合わせによって色々な織物が出来上がります。たとえば大口の後ろ生地は太いよこ糸を強く打ち込んで織ることで「うね」が生まれます。また、古い装束には非常に薄い裏地が使われていることがありますが、こちらはたて糸・よこ糸共に非常に細い糸で織られています。横段(ボーダー)や格子(チェック)も平織の機で織ることが出来ます。
錦(にしき)類・・・翁狩衣(おきなかりぎぬ)
織物の「組織」
織物のたて糸とよこ糸の交差の仕方を「織物組織(おりものそしき)」と呼びます。この交差の仕方によって前述のような様々な織物が生まれます。平織ならたて糸とよこ糸が1本ごとに交差します。翁用の狩衣(翁狩衣)は蜀江(しょっこう)文様の「錦」を使用しています。錦とは本来、2色以上の色糸で柄を表現する織物という意味ですが、西陣では特にたて糸2本によこ糸1本が交差していく「3枚綾の組織」のことを「錦」とよんでいます。
2. 金加工・刺繍で出来ている能装束・・・摺箔・縫箔・腰帯・鬘帯

摺箔は朱子地の上に金・銀箔を糊で貼り付け、模様を表します。
縫箔は金加工に加え、刺繍も施します。
腰帯・鬘帯も朱子の上に刺繍や金加工で製造します。一面に金箔・または銀箔を置いものを「胴箔(どうはく)」とよんでいます。

3. 染物
能用・・・素襖・掛素襖(かけずおう)・直垂・掛直垂(かけびたたれ)・稚児袴
狂言用・・・肩衣(かたぎぬ)・半袴(はんばかま)・大名素襖(だいみょうずおう)・小紋素襖(こもんずおう)・長裃(なががみしも)・千歳直垂(せんざいびたたれ)三番叟(三番三)直垂

能装束には麻を染めて作られるものも沢山あります。型を使うもの、手描友禅で行うもの共にありますが、糊置き・蒸し・水洗・彩色・張りなどの様々な工程を経て出来上がります。